『聖剣カリバーとDOLCE.一神教時代の終焉』
要旨
・唯一神としてのDOLCE.は死に、単独公認プロ時代の功績が問われることになる。
・自己ベ・歴代至上主義からビート実戦主義への転換。
・ここからはDOLCE.も24人のプロの1人に過ぎない。頑張れ!
はじめに
BPL2021セカンドステージの第4試合で、超新星CORIVEが自選のPARANOiA 〜HADES〜で大魔王DOLCE.を破ってスーパーノバ東北がアピナに勝利した。
BPL本番のプレッシャーの中で自己ベストを8点更新しつつDOLCE.が大得意とするソフランで一矢報いたCORIVEのプレイはアッパレだ!これでスーパーノバ東北チームはセカンドステージで勢いに乗ることが出来た。
ところで、これは大会の中で下剋上(とあえて言わせてもらう)を見せたワンシーンというだけではなく、IIDXの歴史に残る、いや、IIDXの歴史を変える勝利だったというべきだと思う。
“大魔王”が生まれるまで
DOLCE.はハピスカ時代の初代トップランカー選手権(2006)で全国3位になると、DJT時代の第二回トップランカー選手権(2008)で初の全国優勝を果たした。その次の作品となるEMPRESS時代が最も有名で、”☆12全曲の全一保持”(※正確にはビタチョコはTANMENが先に全一スコアを出しておりDOLCE.は同点タイ記録)を達成し、IIDXトップランカーとして唯一無二の存在となる。そのあまりの強さに正面からDOLCE.と戦える相手が不在となり、いつの頃からか誰がそう呼んだか「大魔王」という二つ名が付いた。
その後2011年の初代KACで優勝を果たすと、(途中、アンフェアな筐体差によるMADOKAへの敗戦や、欠場もあったが)2016年の5th KACに至るまで敵は無く、およそ8年間、最強の名をほしいままにした。
プロゲーマーDOLCE.の誕生
2017年(SINOBUZ時代)の6th KACには出場せず、解説として出演した際、コナミとプロゲーマー契約をしたことが明らかになった。SINOBUZ時代になり初めて明確にDOLCE.を脅かす2人の存在、LICHTとU*TAKAが台頭してきたことは見逃せない。奇しくも6th KACはLICHTとU*TAKAがSigmundで3点差を争うサドンデスを繰り広げていた。
DOLCE.はプロ転向以降YouTubeを中心に活動を続けることになるが、それ以降公式大会には出場することなく、解説の席に座り続けていた。
DOLCE.は保護されている
公式大会からは引退するがIIDXのプレイからは引退しない、解説には出る、という奇妙なポジションになったDOLCE.。その後U*TAKAのさらなる急成長(KAC2連覇)に加え、新しい韓国勢(MACAOD、KKM*)の台頭により、DOLCE.一強の牙城は完全に崩れ、実際に保有する歴代トップ数でも徐々にこれらのプレイヤーに抜かれていく。DOLCE.は得意とするスクラッチ・ソフラン曲に歴代を固めて持っており、実態としてはニッチ譜面に強い一プレイヤー、としての立ち位置に過ぎなくなっていった。
ところがDOLCE.は唯一の公認プロゲーマーとして存在しそのネームバリューを存分に使う一方、公式大会の場に出場しないことによって負ける姿を見せず、IIDX界の”王者”として認知され続けていた。公式唯一の公認プロゲーマーとして表舞台に立ち続け、特権階級として振る舞ったのである。
1/1から1/24へ
ところが今回DOLCE.がBPLに出場したことで状況は大きく変わる。唯一の公認プロ、という立ち位置から、24人いるプロの一人という立ち位置に状況は変化したのだ。初戦のラウンドワン戦・ソフラン大将戦こそ、誰もが認める”現王者”U*TAKAと、”旧王者”DOLCE.の一騎打ちとなり、結果は1-1と引き分ける形となった。これは王者と王者との対戦であり、決着つかずという結論でお互いに痛むことは無かった。
しかし、今週のCORIVE戦はどうか。CORIVEがIIDXを始めたのは2016年からであり、公式大会への出場歴すら無い。ドラフト3巡目の圧倒的な”格下”相手に、しかも得意ジャンルのソフランでDOLCE.が負けた。
DOLCE.も人間だ。時には負ける。しかしDOLCE.は神ではなく人間だったのだ。
これから先、視聴者はDOLCE.勝利を絶対的なものだとは思わなくなるだろう。対戦するプロも同じだ。これまで以上に本気で勝利を狙ってくることになる。DOLCE.に対する心理的なタガが、DOLCE.を守る鎧が壊れてしまったのだ。今までのような”特権階級”としてではなく、一プレイヤーとして共に競うところまで引きずり降ろされたのである。
象徴的だったCORIVEの一刺し
BPLは自己ベストの高さを競い合う勝負ではない。本番でいかに力を出せるか、という点が重要であることは視聴者にもこれまで十分に伝わっているだろう。今までのIIDX界は(アリーナモードやKACと言った実戦の場はあったものの)、歴代保有数こそが本質的な強さ、という認識が根強かった。ところがBPLでは固定オプションの魔術師SEIRYUが自己べで劣る相手を軽々と翻弄する姿や、今回のCORIVEのR-RANを使った作戦などが注目を集め(視聴者を沸かせ)、結局本番で勝てるのか否か、が視聴者の関心事となっている。歴代をいくら持っていようが、本番一発勝負のビートバトルで負ければそれまでとなってしまうのだ。今までは当たり譜面に粘着して歴代を出すことが至上命題だったビート界も、今後は本番一発での対応力を高めることがメインになっていくのかもしれない。DOLCE.を相手に自己べで劣るCORIVEが本番で勝利した、というのはまさに象徴的な瞬間だったと言えるだろう。
ギャラリー界の時代からファン界の時代へ
良く考えてみれば”歴代スコア”というものは奇妙なものである。公式で”歴代スコア”なるものが表示されているわけではなく、あくまでも非公式に有志が集計したものに過ぎない。ところがランカーの動画には必ず「歴代+○○点!」と書いてある。SIRIUS以降の歴代至上主義・歴代保持数至上主義は”ギャラリー界”の時代だったと言えるかもしれない。
ところがBPLが開幕することによって、重要なことは歴代の数ではなくいかにチームを盛り上げ、ファンを獲得するか(そしてスポンサーの企業に対して貢献できるか)こそが重要な時代となった。ファンあってこそのプロ。つまりファン界の時代になった。BPLプロ選手サポーターズランキングでも上位の選手が必ずしもBPLの試合で強かったわけではない。プレイヤーのスコアに対してではなく、プレイヤーの”人間性”に惹かれた”ファン”がそれぞれに存在する時代が到来したのである。
しかし振り返れば過去このような時代が無かったわけではない。DOLCE.が台頭する以前、銀(FINE*)、1048、ぺきし時代にはそれぞれのランカーに文字通りの”信者”が居た。それぞれのプレイヤーのプレイスタイル、考え方、人間性を見て、各々のファンが好きなランカーを推す時代。つまりBPL以降、多神教の時代に戻ったのだ。1曲につき1つしかない歴代トップスコアに注目が集まり、そしてDOLCE.が公式でプッシュされ唯一のプロとして注目を集める時代(一神教)は終わり、24人のプロたちがそれぞれにファンを獲得する時代(多神教)が到来したと言えよう。
これまでのDOLCE.そしてこれからのDOLCE.
もしもこれまでのDOLCE.が歴代スコアを出す・歴代動画をアップすることに執心し、自らの強さを誇示することしか出来ていなかったのだとすれば、後から出てきたプレイヤーに抜かされてしまえばそれまでの価値しか持たないことは本人が一番よく分かっているはずだ。
DOLCE.は唯一の公認プロとしての期間、IIDX界を十分に牽引し、普及出来たのか。その功績が今後問われることになるだろう。その功績が大きければ、当然プレイヤーとして”唯一神”ではなくなったとしてもDOLCE.への尊敬が失われることはないのである。
そしてBPL開催中は、あくまでも24人のうちの一人のプロとして、当然ながら「勝ったり負けたり」することになる。
神は死んだ。しかしDOLCE.は死んでいない。何より私はEMPRESS時代の最強プレイヤーDOLCE.の大ファンだ。当時の”大魔王”DOLCE.はクリアだろうがスコアだろうがフルコンだろうが、最強だった。正直Mare Nectarisエクハ配信などと銘打って5時間かけても出来ないような今の姿を見たくない。
“大魔王”の二つ名に恥じぬよう、チームアピナを、BPLを牽引する存在としてこれからも戦い続けて欲しい。