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「ストラテジー解放宣言」
ストラテジーカード、もうやめませんか?


BPLシーズン2はIIDXが終わり、ついにBPL初の他機種となるSDVXシーズンが始まりました。
SDVXはメガミックスバトル・タッグバトル・新曲バトルなど様々なルールの工夫が凝らされており、弊サイトもIIDXシーズンとの違いを楽しんでいますが、IIDXにあってSDVXにないものといえばストラテジーカードではないでしょうか。今日はSDVXシーズンを見ながら改めて感じたこととして、ストラテジーカード廃止論について述べたいと思います。


音楽ゲームという『人vsゲーム』の構造を持つゲーム性と、試合中に数千回の判定を試行するという性質上、音ゲーの試合は下剋上やまぐれ勝ちがそもそも生じにくいと考えます。
サッカーのW杯を見ればわかるように、『人vs人』の試合で、かつ1試合にせいぜい3点しか入らないようなゲームでは下剋上やまぐれ勝ちが頻繁に起こります(だからサッカーくじのような公営賭博が成立します)。
一方で音楽ゲームにおいては本番でやるべきことを本番の環境でいくらでも練習できますし、2000回に近い大量の試行回数があるので一瞬の不運が原因でそのまま負けてしまう、ということも起きにくいと考えます。
特にライトニング筐体導入・アリーナ譜面同期など、競う条件がフェアになった昨今では強い人が勝つという傾向がより強まっていると感じます(もちろん、それ自体は好ましいことではあるのですが)。

もちろん強い人がただ勝つだけでは面白くない(プロリーグとして成立しない)ので、BPLではルール上のさまざまな工夫によってこれを面白くするようにしています。
それが選手のコスト制や各試合ごとのジャンル指定なのですが、そのような工夫の一つとしてストラテジーカードがあります。
音ゲーの試合では当然ながら自選曲側が有利なので、実力が近ければどうしても試合は引き分けになりやすく、皆が期待するような逆転劇はそうそう生じないはずです。恐らくストラテジー導入の意図としては、ストラテジーカードのような不確実性がBPLの中に加わることによって、試合展開を読めなくさせたい、BPL2021の青龍マジックのようなドラマティックな逆転劇を演出したいといったところが期待されていたのだと思います。

確かにBPL2021ではストラテジーカードという新要素が大会のアクセントになっていたように思いますが、導入されて2年目となるBPL2022では、レジャランがGiGOを相手に3連続でストラテジーを切ったことに象徴されるように、「確実に勝ちたい相手に使って相手の逆転の芽を摘む」という使われ方が目立ちましたし、実際に高い効果をあげました。

以前に弊サイトが分析を行ったように

BPLにおける”ホームアドバンテージ”とストラテジーについて
https://final-gallery.web.app/homeadv.html

自選曲であることのアドバンテージはおよそドラフト指名順位1巡分に相当しています。
格下側としては仕上げてきたとっておきの自選で下剋上を狙いたいわけですが、ここにストラテジーをぶつけるときにストラテジーカードの効果(期待勝率上昇)は最大化されることになります。

上記を前提に、現状のストラテジーカードは以下の3つの問題があると考えます。


【問題点1】ストラテジーカードの存在が下剋上や大逆転といった面白いシーンを消している
ストラテジーカードは本来導入時に意図されていたような逆転の演出というよりは、むしろ確実に勝ちたい相手に投げて蓋をするという使い方がされています。
4巡目の中で尖った得意曲を持つNORI選手が4巡で唯一2回のストラテジーを受ける(4回出場し2回被弾しています)などが象徴的です。

SEIRYU選手も最多タイの3被弾していますが(同じく3被弾しているEXIT選手といい、どうも新旧シルク選手は被弾が多いです)、ストラテジーで相手の脱法皿曲を流して超地力で青龍マジック炸裂、というシーンも今シーズンからのストラテジー相殺化で見られなくなってしまいました。

事前の練習で鍛えた武器曲で下剋上する、もしくはストラテジーを使って大逆転する、というのが盛り上がるシーンだと思うのですが、むしろ今のストラテジーカードの存在はそうした見せ場を損なってしまっています。


【問題点2】リーグ全体を通じて「富める者がますます富んでいる」
レジャランチームが振り返り配信でも述べていたように、リーグ全体を通じて序盤につまづいたチームにはストラテジーが集中しやすく、一方で序盤でリードしたチームはストラテジーを受けにくくなっています。
その証拠に開幕3連勝を決めたレジャランチームはシーズン全体を通じてストラテジーカードを1枚も受けませんでした。
最多のTradzが8枚、続くGiGOが7枚であることを考えるとかなりの差があります。
"最後の最後まで誰が勝つか分からない"のが本来面白いと思うのですが、ストラテジーカードは序盤の差を固定化するように働いてしまっています。

これはBPLという大会そのものの制度設計の問題でもあると思うのですが、BPLでは全8チームある中で下位2チームだけが脱落するという重いペナルティを受けます。
全6チームで行われる野球のレギュラーシーズンを考えると、かつてはポストシーズンが無く単純に1位チームだけがそのまま優勝し日本シリーズに進出しました。
1位になることに非常に強い報酬があり1位でなければ何位でもほとんど同じ、となると1位以外のチームは結託して1位チームを叩くようになります。各チームは1位チーム(だいたいの年で巨人でした)に自チームのエース投手をぶつけて引きずり下ろすように振る舞います。

これと逆のことが起きているのがBPLで、下位2チームでなければ良いというインセンティブが働きやすいので、上位6チームは結託して下位チームを叩くようになってしまっています。
ポストシーズン進出チーム数や順位によるアドバンテージも含めて、この点は調整の余地があるように思います。


【問題点3】もっともっと選手のかっこいい所が見たい
ストラテジーを使われるということは、要するにその選手の切り札が脅威に思われているということです。切り札が何の脅威もない(負ける可能性がない)のであればそもそもストラテジーは使われないはずです。
選手が鍛えたとっておきの切り札、もっともっと見たくないですか?

現行ではストラテジーカードが4枚(32枚)配布されており、平均すると1試合に1枚以上のストラテジーカードが飛ぶことになります。これは多すぎると思います。
相手に勝つために武器曲を鍛えたはずなのに、それが大会本番でプレイできないのだとしたら何のために練習をしているのでしょうか。弊サイトはじゅんた選手のV2やBLACK.も見たかったです。

"ストラテジーで投げられなかった曲の供養リザルト"というツイートをしばしば目にしますが、ファン目線として本番で見られなかったことを残念に思ってしまいます。


改善策について
上記のような問題点があるストラテジーカードですが、これをもっと面白くするためにはどうしたら良いでしょうか。
たとえば以下のような3つの改善策を考えています。

【改善策1】 格下側・下位チーム側からしか使えないようにする
逆転の目を高めることが本来期待されていることだとすると、そもそも劣勢の側からしか使えないようにするのはどうでしょうか(マリオカートのアイテムに近いですが…)。
ドラフト指名順位が劣後する選手→上位選手にしか使えない、もしくは対戦時点でのリーグ順位が下のチームから上のチームにしか使えない、というようなアイデアです。
もちろんわざと序盤で順位を落とすという戦略を惹起しうるのですが、ストラテジーカード1枚の効果は大きくないことを考えるとわざと負けることには繋がらないでしょう。

【改善策2】 相手の選曲をランダムセレクトに変える以外のメリットを付ける
ストラテジーカードを使うと何が嬉しいのかというと、相手の選曲を自選曲からランセレされた(お互いに知らない)曲に変えられるというメリットがあるわけですが、
結局このメリットが、"とっておきの自選がプレイできない(見られない)"というデメリットの裏返しとなってしまっているわけです。
例えばSDVXのメガミックス戦における"エクシードギア"のように、ストラテジーカードを使った試合の自選で勝ったら倍のポイントを獲得する、というようなメリットを考えてみてはどうでしょうか。
上記1と併せて「格下・下位チームから使えて、自選の獲得ポイントが倍」というルールであればストラテジー込みでの大逆転をルール的に演出できそうな気がします。

【改善策3】 ストラテジーカード以外の方法で不確実性を増やす→完全新曲バトル
SDVXでは大将戦の最後に完全新曲バトルが導入され、好評を博しています。完全初見力が問われることからそれまでの流れを変える力がありますし、何より視聴者へのインパクトも大きいです。
ストラテジーカードはランダムセレクトされた曲をプレイさせることで不確実性を高めていますがIIDXでも完全新曲(新譜面)バトルを実施できないでしょうか。新曲なのか、それとも追加レジェンダリア譜面なのかはさておき、放映された翌日から新コンテンツとしてゲームセンターでプレイできる、というのは音楽ゲームならではの販促手段ではないかと思います。(格闘ゲームで毎週新キャラを追加するわけにはいかないでしょう)
不確実性によって盛り上がりを作る、ということがストラテジーカード本来の目的だとしたら、SDVXで成功した完全新曲バトルをIIDXでも行うことでその目的は十分に達成されると考えます。

今回はストラテジーカードという観点に絞ってBPLのルールについて考えてみました。次回はBPL(のルール)が日本のビートシーンをガラパゴス化させてしまわないか、という点について考えてみたいと思います。